教訓となる有害反応

教訓となる有害反応

ハナ・ティスランド、ロバート・ティスランド

ご存知のように、ティスランド・インスティチュートでは、エッセンシャルオイルを使用した際に引き起こされた皮膚反応の多くを収集するために、スクールウェブサイト上に『有害反応データベース』を管理しています。これは誰でも報告書を提出することができ、可能な限り、有害反応の写真も添付されています。私たちはすべての有害反応を集めようとしているわけではありませんが、それぞれの特定のケースで何が起こったのか、どうすれば回避できたのかを調べています。そこで、そのような事象は皆さんにとって、将来に起こるかもしれまい問題を未然に防ぐ方法を教えてくれます。最近、このような事例が提出されたので、さらに詳しくスポットライトを当てたいと思います。以下は、この事例で何が起こったのかについての説明です。

「これはEtsyサイトに出店していた販売者から購入したハンドメイドの虫除け剤です。全成分は以下の通りです〜水、シダーウッド精油、レモングラス精油、シトロネラ精油、シナモンバーク(樹皮)精油、ユーカリ精油、ポリソルベート20。

これを3歳半の子供に塗った直後、肌が赤くなり始めました。その後15~30分かけて悪化し、じんましんまで進行しましたが、かゆみはなく、本人が気にする様子はありませんでした。学校スタッフが、彼の皮膚を石鹸と水で洗い流したところ、炎症は治まり始め、その後完全に治まりました。この反応は彼の免疫系を永久に刺激するようになるのでしょうか?この一件が、彼に永久的なダメージを与えなければいいのですが。。。」

この有害反応レポートは、明らかな発赤と蕁麻疹を示す子供の胴体の写真とともに送られてきました。

そこで、この機会に、製品メーカーと消費者といったすべての関係者が、このような厄介なサプライズを防ぐために何ができるかを考えてみましょう。

何が起こったのか?

この場合、製品塗布後に子どもの皮膚に有害反応を起こしました。幸いなことに、かゆみや痛みはなく、反応もすぐに治まったことから、アレルギー性ではなく刺激性であった可能性が高いと考えられます。

最も可能性が高いのは、シナモンバーク精油とレモングラス精油による刺激反応でしょう。希釈濃度が不明であり、製品に含まれるエッセンシャルオイルの正確な割合も不明であるため、より具体的に説明することはできません。

製造者向けアドバイス

Etsyは、職人やクリエイターにマーケットプレイスを提供しているため、Etsyで手作り化粧品を販売することは珍しいことではありません。しかし、そのようなクリエイターは、消費者の安全に責任を持つだけでなく、その製品に適用される地域、州、国の規制に従う必要があります。

顧客の安全を確保し、万が一副作用が訴訟に発展した場合に備えて、製造物責任保険に加入しておくことが重要です。

製品情報と表示

この製品に関する情報は、有害反応レポートに記載された成分リストをもとに、販売者のページから引用しました。以下の説明は、メーカーのウェブサイトに掲載されている製品の説明書です:

「使用方法 :肌にたっぷりスプレーします。衣服や髪にもスプレーして最大限の保護を!」

***シナモンは皮膚に炎症を起こすことがあります。子供には使用しないことをお勧めします。***

同じ情報が製品自体にも記載されているかどうかは確認できませんでしたが、製品の画像から、そのようなことはないと思われます。

製剤メーカー/製造業者としては、訴訟から身を守るために、使用目的に関連する安全警告が、可能な限り明確に表示されていることを念頭におくべきです。顧客に害を及ぼしたくないのは言うまでもありませんが、人々は必ずしもウェブサイトに書かれていることに注意を払うとは限らないので、製品ラベルの表示要件は重要なのです。

化粧品の場合、FDAはウェブサイト上だけでなく、販売時点で製品に警告文を表示するか、製品に添付することを義務付けています:

規制は、「必要な警告文が記載されていない化粧品は、FD&C 法第 602 条(a)に基づき、不当表示とみなされる可能性がある。FD&C法第602条(a)の下では、”成形品の使用により生じる可能性のある結果に関して…重要な “事実を明らかにしていないため、不当表示とみなされる可能性がある。」

目立つこと: 警告文は、購入時、及び使用時に一般消費者に読まれる可能性が高いように、他の言葉、文言、又はデザインと比較して、ラベル上に顕著に目立つように表示されなければならない。

この製品は昆虫忌避剤であるため、FDAではなくEPAによって規制されていますが、製品の安全性が最優先されることに変わりはなく、また、シナモンバーク精油とレモングラス精油は、いずれも潜在的なアレルゲンなのです。

製品に含まれる精油の合計希釈率に関する情報はないですが、皮膚に塗布するための安全基準に達していると仮定しましょう。シナモンとレモングラスの両方が安全限界内に存在する必要があり、成人の場合、レモングラスは0.7%、シナモンバークは0.1%となっています。この製品を子供に使用しないというのは良いアドバイスですが、ラベルに記載する必要があり、理想的には6歳未満、12歳未満、18歳未満など、年齢層を明記する必要があります。

その製品が安全かどうか確信が持てない場合は、「お子様には使用しないでください」と言うことを躊躇しないでください。繰り返しになりますが、これはあなたの保護と顧客の保護のためです。効能を失うことなく、可能な限り低い希釈濃度にすること、そしてその希釈濃度が安全な範囲内であることを消費者に知らせることが、あなたの保護につながります。

多くの小規模生産者は、精油の安全性に関する規制を知らず、中には単に無視することを選択する場合もあります。2014年、私たちはシナモンバーク精油の安全性に関する報告書と、その使用に関する一般的な推奨希釈濃度についてのブログ記事を発表しました。一部のエッセンシャルオイル販売者は注意を払い、変更を加えましたが、多くは変更しませんでした。

原材料と配合

記載されている成分は前述の通りです: 水、シダーウッド精油、レモングラス精油、シトロネラ精油、シナモンバーク精油、ユーカリ精油、ポリソルベート20。

ポリソルベート20は、精油が水と混ざり合うのを助ける乳化剤であり、安全上の理由から不可欠な成分であることは、配合担当者ならご存知でしょう。ポリソルベート20を安全でない成分と考える人もおり、主な懸念は1,4-ジオキサンによる汚染です。EPA(米国環境保護庁)が発がん性物質とみなしているジオキサンは、ポリソルベートの製造過程で微量に生成されますが、ほとんどのメーカーはバキュームストリップ(真空剥離)と呼ばれるプロセスでこれを除去しています。ポリソルベート20は食品業界で広く使用されているため、FDAはこの点を懸念しており、食品グレードのポリソルベート20の使用を推奨しています。

FDAはジオキサンの上限値を設定していませんが、規制当局の間では10ppmが化粧品の安全閾値であるというコンセンサスが得られています(ICCR 2017、SCCS 2015)。また、ジオキサンは揮発性であり、皮膚に塗布する製品では、そのほとんどが蒸発することも注目に値します(Juhász and Marmur 2014)。そこで、ポリソルベートは、皮膚刺激やアレルギーのリスクはないと考えられています(Anon. 1984)。

製品の配合者の方々はまた、おそらく90%以上の水を含むこの製品に防腐剤が含まれていないことに気づかれているでしょう。製品に水や水性成分を取り入れるときはいつでも、水=生命、つまり、効果的な保存システムを使うことで細菌が繁殖するのを防がない限り、細菌が繁殖するという事実を考慮しなければなりません。

『精油には抗菌作用があるため、防腐剤として機能する』というのはよくある誤解ですし、そもそも皮膚に塗布して刺激やアレルギーを起こさず安全に使用することを考えれば、使用されるべき精油の濃度が高すぎとなってしまうのです。つまり、皮膚に直接塗布するという指示に従うには濃度が高すぎとなる、一方で効果的に保存するには低すぎとなる、のどちらかとなってしまいます。また、この製品に防腐剤が含まれている可能性もありますが、原材料リストに公表されていません。

消費者向け配合に防腐剤を使用することに抵抗がある場合、最も簡単な解決策は、水を配合しないことです。スプレー可能な油性製剤を作ることは間違いなく可能です。

製造(配合)者向けアドバイスのまとめ

・消費者が製品を使用する際、特に安全性に関する説明が明確で、消費者が利用できるようにすること
・精油の希釈濃度、保存、乳化の観点から製品の安全を確認すること
・万が一の有害反応勃発に備え、製造物責任保険に加入しておくこと

消費者向けアドバイス

精油を使用した製品を購入するのであれば、このような製品は本来安全性と有効性を考慮して作られるものだと考えるのが妥当でしょう。また、顔の見える作り手による小規模な生産は誠心誠意作られたもので、巨大な工業製品よりも本質的に安全であると考える傾向があります。そして多くの場合、この2点に当てはまります。

しかし、小さな子供や、その他の敏感な人々に関して特に具体的な情報がない場合、「明記されていない限りは、安全でないと考える」という前提のもとで判断する方が安全かと思います。

この有害反応報告の状況では、親御さんは推奨されていない方法で製品を使用したわけですが、警告が製品のラベルに記載されていないようでしたので、上述のように子どもの使用に対する具体的な情報があったとは思えません。

消費者向けアドバイスのまとめ

・説明書をよく読むこと
・小児には、必ず『小児用』と特定された製品を使用すること

ファーストエイド

同じような有害反応が出た場合は、すぐに石鹸で洗い流し、その後、炎症を鎮めるために無香料のクリームやジェルを塗ってください。詳しくはこちら

この概説が役に立ち、あなたが自分で作ったり、小規模の製造業者から購入したりする完成品に関する安全性をナビゲートするのに役立つことを願っています。

また、あなた自身が同様の経験したかもしれない場合は、私たちのデータベース(https://tisserandinstitute.org/adverse-reaction-database/#home/add-adverse-reaction-report/)に遠慮なく投稿してください。

参考文献

Anon. (1984). Final report on the safety assessment of polysorbates 20, 21, 40, 60, 61, 65, 80, 81, and 85, 3(5). https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.3109/10915818409021272

ICCR 2017. Considerations on Acceptable Trace Level of 1,4-Dioxane in Cosmetic Products.

http://bqw.csstgc.com.cn/userfiles/75716bb34c49411481bac9d9ac99ebee/files/teckSolution/2019/07/Considerations%20on%20Acceptable%20Trace%20Level%20of%201%2C4-Dioxane%20in%20Cosmetic%20Products.pdf

Juhász, M. L. W., & Marmur, E. S. (2014). A review of selected chemical additives in cosmetic products. Dermatologic Therapy, 27(6), 317–322. https://doi.org/10.1111/dth.12146

SCCS 2015. The Report of the ICCR Working Group: Considerations on acceptable trace level of 1,4-dioxane in cosmetic products. https://ec.europa.eu/health/scientific_committees/consumer_safety/docs/sccs_o_194.pdf

ハナ・ティスランド

ティスランド・インスティテュートのCOO。彼女は7人のスタッフを監督し、教育プラットフォームの管理、トレーニングコースの企画、ウェビナーの開催、ブログ記事の委託、インフォグラフィックやソーシャルメディアコンテンツの制作監督、ニュースレターの執筆などを手掛けている。彼女は、どういうわけか自分のブログ記事を書く時間も見つけ、頼れるIT担当者でもある。医師と看護師の家庭に育ったため、人体の仕組みに根底から興味を持ち、後に医療翻訳を専門とするようになった。チェコ国籍のハナは、翻訳と通訳の分野で7年の経験を持ち、フランス語と英語も堪能。政治家、作家、教育者、医療専門家などの通訳を務めたことで、情報を効果的に伝え、トラブルを回避する方法について貴重な視点を得た。ハナは、2015年からロバート・ティスランドと仕事を共にするようになり、エッセンシャルオイルに関する情報がどのように集められ、編集され、伝えられているかということについて独自の視点を持っている。

ロバート・ティスランド

国際的に著名な精油関連の研究家。著書『アロマテラピー:(芳香療法)の理論と実際(The Art of Aromatherapy)』(1977)は12の言語で出版され、『精油の安全性ガイド第2版』(2013)は精油の安全性について検討する際の基準として広く認知されている。また、2015年にオンラインスクールとして再始動したティスランド・インスティチュートには世界各地から2000名以上の受講生が集い、一部の講座は日本語字幕版もリリースされている。2023年には、ティスランド・インスティチュート日本語版ウェブサイトが完成。

IFA、IFPA、A I A名誉生涯会員。www.tisserandinstitute.jp

翻訳 池田朗子 M.I.F.A.   

1994年以降東京を中心にアロマテラピー講師として活動開始、現在に至る。2000年に英国へ転居後は教育活動の他、日英雑誌への執筆、国際カンファレンスへの登壇、『精油の安全性ガイド第2版』など翻訳も多数手がけている。英国IFA理事(2005〜06年)www.aromaticsworld.com