クラリセージ精油にエストロゲン様作用はあるのか?

クラリセージ精油にエストロゲン様作用はあるのか?

ロバート・ティスランド

Franchomme & Pénöel (1990)によれば、クラリセージ精油はヒトエストロゲンと構造的に類似していると言われているスクラレオールを含有していることから、エストロゲン様作用があるとされています。また彼らは、同精油のスクラレオール含有量を1.6~7.0%と報告しています。一方でこの精油のガスクロマトグラフィー分析では、スクラレオール含有量は通常0.1~0.4%です。ただし、この化合物は揮発性が極めて低いため、スクラレオール濃度は過小評価されがちであり、1.6~7.0%という数値は、おそらく妥当であると考えられます。ちなみに、クラリセージアブソリュートは固形物質であり、約70%のスクラレオール(これも固体)を含有します。

クラリセージ精油のホルモン様作用に関するインターネット上の一般的なコメントは以下のようなものが見られます:

  • クラリセージ精油に含まれるスクラレオールは、エストロゲンの作用を模倣する
  • スクラレオールはエストロゲンに似た構造を持つので、無月経、月経痛、月経時のけいれん症状にクラリセージが効果を発揮する一因となっている
  • クラリセージに含まれる化合物スクラレオールはエストロゲンそのものではないがエストロゲン不足時にはエストロゲンを模倣し、エストロゲン不足がない場合は体内でエストロゲン量を増やすことはない
  • 特定の精油には植物性エストロゲン作用があり、例えばクラリセージの成分であるスクラレオールは、体内でエストロゲンを産生するよう促す
  • スクラレオール含有量が高いクラリセージ精油は、ホルモンバランス調整作用を持ち、女性の月経前緊張症を緩和する強力な効果を発揮する

上記の記述には4つの異なる主張が含まれていることに留意してください:

1) クラリセージ/スクラレオールは天然エストロゲンの作用を模倣する

2) クラリセージ/スクラレオールは天然エストロゲンの作用を模倣するが、エストロゲン欠乏状態にある場合に限る

3) クラリセージ/スクレオールは体内のエストロゲン産生を促進する

4) クラリセージ/スクレオールはホルモンバランスを整える

これら4つの中で、1)のみがFranchomme & Pénöel (1990) の当初の声明と一致しているわけですが、そもそも、これらの主張はいずれもエビデンスによって裏付けられているものなのでしょうか?

私の初期のブログのひとつ、パラベンについての寄稿では、これらの化学物質がエストロゲン様作用を持つ可能性について言及しました。多くの人々が、まさに同様の理由でパラベンを避けている現状があります。このような「ホルモン攪乱作用」を持つ物質は、男性の生殖能力や乳がんなどに悪影響を及ぼす疑いがあるのです。

では、分かりきった疑問を投げかけましょう:クラリセージ精油にエストロゲン様作用があるとするならば、パラベンをエストロゲン様作用があると信じて避ける人は、同様にクラリセージ精油も避けるべきということになりませんか?

私が書いた『パラベン寓話The Paraben Parable』ブログ投稿への、デネ・ゴッドフリーDene Godfreyによるコメントを参照すれば、ブチルパラベンがin vivo*研究(*in vitroではなくin vivo;同ブログにデネ本人がコメント)において確かにエストロゲン様作用を示し、その作用はエストラジオールの10万分の1であったことが分かります。しかし、in vitroの結果だけでは生体内での影響についてはほとんど何も分からないものです。スクラレオールに関して言えば、ホルモン作用の可能性を示す研究は、私の知る限り存在しません。[クラリセージ精油は時折、妊娠中禁忌とされるが、これを裏付けるエビデンスは存在せず、英国では分娩時研究2件で使用され、明らかな有害作用は認められなかった(Burns et al 2000, 2007)]。

エストラジオールとブチルパラベンは、いずれもフェノール官能基、すなわちベンゼン環に結合したヒドロキシル基(OH)を含有します。フェノール構造はエストロゲン活性にとって重要であり、第二の環の存在も同様に重要です(Anstead et al 1997, Blair et al 2000)。しかし、スクラレオールはフェノール構造を含まず、ベンゼン環すら有していないのです。スクラレオールはラブダン型ジテルペンであり、この分子群はエストロゲン様構造を含まず、エストロゲン活性も認められていません(Topçu and Gören 2007)。

したがって、その構造から考えると、スクラレオールにエストロゲン様作用がある可能性は低いと言えます。仮にスクラレオールにエストロゲン様作用があったとしても、クラリセージ精油中の含有量が約4%であるため、この成分が精油に何らかの効果をもたらすには、エストロゲン受容体部位に対する非常に高い結合親和性が必要となり、これは極めてあり得ないことなのです。

これはクラリセージ精油に効果がないという意味ではありません。月経痛、月経前症候群、更年期障害などの症状緩和に有用である可能性は十分ありますが、これらにエストロゲン様作用が必須というわけではないのです。また、私はスクラレオールがエストロゲン様作用を持つ可能性を完全否定しているわけではなく、単にそのエビデンスが存在せず、その構造からもそのような作用が示唆されないと言っているだけです。これは同時に、クラリセージ精油が「ホルモンバランスを整える」、「エストロゲン欠乏時のみエストロゲンを模倣する」、あるいは「体内の天然エストロゲン産生を刺激する」といった効果を裏付けるエビデンスも存在しないことを意味します。

スクラレオールには、ヒト乳がんMCF-7細胞に対するin vitro試験での有効性をはじめ、興味深い抗がん作用が認められています(Dimas et al 2006)。クラリセージ精油にも含有されている、13-エピ-スラクレオールという異性体は、in vitroで乳がんおよび子宮がんの増殖を抑制し、タモキシフェンよりもわずかに強力でしたが、正常細胞には毒性を示しませんでした(Sashidhara et al 2007)。このことから、スクラレオールはむしろエストロゲンを阻害し、つまるところエストロゲン受容体部位と何らかの相互作用を持つ可能性があることが示唆されています。確かなのは、「スクラレオールが乳がんを引き起こすことはない」ということです。

Aromatherapy Tymesブログで、スクラレオールの安全性についての疑問を提起してくれたシェリー・ビッツSherrie Bitts氏、そしてこのテーマで私にブログを書くよう提案してくれたローラ・カンテレLora Cantele氏に感謝しています。

ーーー

ー以下、英語版当ブログ投稿に対するデネ・ゴッドフリーDene Godfreyのコメントを日本語で掲載しますー

Dene Godfrey on April 27, 2010 at 4:21 pm

ロバート、一点確認ですが、私がブチルパラベンについて引用した数値はin vivo研究のもので、in vitro研究のものではありません。

私の印象では、クラリセージ精油に関する研究があるとしたら、エストロゲン受容体に結合する能力、すなわちエストロゲン様活性を測定したものだろうという気がします。あなたが引用した文献にも、この精油が全遺伝子発現に及ぼす影響を調べた研究は含まれていませんね(私の知る限り、エストロゲンを模倣する能力があるかを判断する最良の方法はこれです)。全遺伝子発現解析による研究が存在しないならば、この精油がエストロゲンを模倣できるという確かなエビデンスはない、と言えます。エストロゲン活性とエストロゲン模倣作用は全く異なる特性ですが、用語が非常に紛らわしいのです!

ーーー

参考文献

Anstead GM, Carlson KE, Katzenellenbogen JA 1997 The estradiol pharmacophore: ligand structure-estrogen receptor binding affinity relationships and a model for the receptor binding site.

Blair RM, Fang H, Branham WS et al 2000 The estrogen receptor relative binding affinities of 188 natural and xenochemicals: structural diversity of ligands. Toxicological Sciences 54:138-153

Burns E E, Blamey C, Ersser S J et al 2000 An investigation into the use of aromatherapy in intrapartum midwifery practice. Journal of Alternative & Complementary Medicine 6:141-147

Burns E, Zobbi V, Panzeri D et al 2007 Aromatherapy in childbirth: a pilot randomised controlled trial. BJOG 114:838-844

Dimas K, Papadaki M, Tsimplouli C et al 2006 Labd-14-ene-8,13-diol (sclareol) induces cell cycle arrest and apoptosis in human breast cancer cells and enhances the activity of anticancer drugs. Biomedicine & Pharmacotherapy 60:127-133

Franchomme P, Pénöel D 1990 L’aromathérapie exactement. Jollois, Limoges

Sashidhara KV, Rosaiah JN, Kumar A 2007 Cell growth inhibitory action of an unusual labdane diterpene, 13-epi-sclareol in breast and uterine cancers in vitro. Phytotherapy Research 21:1105-1108

Topçu G, Gören AC 2007 Biological activity of diterpenoids isolated from Anatolian Lamiaceae plants. Records of Natural Products 1:1-16

ロバート・ティスランド

国際的に著名な精油関連の研究家。著書『アロマテラピー:(芳香療法)の理論と実際(The Art of Aromatherapy)』(1977)は12の言語で出版され、『精油の安全性ガイド第2版』(2013)は精油の安全性について検討する際の基準として広く認知されている。また、2015年にオンラインスクールとして再始動したティスランド・インスティチュートには世界各地から2000名以上の受講生が集い、一部の講座はアロマテリから日本語字幕版もリリースされている。2023年には、ティスランド・インスティチュート日本語版ウェブサイトが完成。

IFA、IFPA、A I A名誉生涯会員。www.tisserandinstitute.jp

翻訳 池田朗子 M.I.F.A.   

1994年以降東京を中心にアロマテラピー講師として活動開始、現在に至る。2000年に英国へ転居後は教育活動の他、日英雑誌への執筆、国際カンファレンスへの登壇、『精油の安全性ガイド第2版』など翻訳も多数手がけている。英国IFA理事(2005〜06年)www.aromaticsworld.com