母乳とペパーミント精油に関する調査結果

母乳とペパーミント精油に関する調査結果

ロバート・ティスランド

「ペパーミント精油は、母乳の出を悪くするのか?」この質問に対する私の答えは、今までならば、「わからない」というものでした。というのも、これを裏付ける研究は存在しなかったからです。また、ペパーミント精油が何故そのような効果をもたらすのかの機序も、私には想像できませんでした。

授乳中の女性にペパーミント精油を使用した研究はあるのですが、母乳供給の問題を調べたものは存在しません。タブリーズ医科大学で行われた2つの臨床試験では、ペパーミント精油を0.2%濃度で調合したジェルを、合計114人の女性のひび割れた乳首を治すために塗布し、有望な結果が得られました(Melli et al 2007, Shanazi et al 2015)。しかし、いずれの報告でも乳汁分泌については触れられていません。他の研究では、授乳中の母親18人にメントール100mg(ペパーミント精油6~8滴に相当)を含むカプセルを3日間連続で内服させたところ、その後8時間にわたって少量のメントールが母乳中に測定されました(Hausner et al 2008)。しかし、この研究でも乳汁分泌量は報告されていませんでした。

ペパーミント精油が母乳の出を悪くするという話は数名の母親から聞いたことがありましたが、噂のようなものばかりで信頼できる情報はなく、また、メリーランド大学統合医療学部のカミーユ・フリーマン准教授も、多くのハーブ関連文献を調べた結果、『The Nursing Mother’s Herbal』の中で、アルトイド(ブランド名)・ミントを食べると授乳が阻害されるという逸話をひとつ見つけただけでした。

そこで、2016年12月2日に以下のメッセージを投稿し、Facebookのフォロワーに聞いてみることにしました。2日間で222以上のコメントがあり、そこから166の関連回答をもとに推定しました。一言添えておきますが、これは科学的な研究ではないし、入念に検討された質問に一人一人が答えるような、管理された調査でもありません。しかし、「これは授乳期の女性にとって深刻な問題になり得るのか?」という、私の疑問に手っ取り早く答えをくれました。

答えはYESです!世論調査でわかったことは、30%(166人中50人)がペパーミント精油によって母乳量が減ったと回答し、70%(166人中116人)が影響はなかったと回答しました。この種の世論調査やアンケートでは、効果を実感した人の方がそうでない人よりも回答する確率が高いことが多いので、今回の数字が典型的な数字だとは言えないかもしれません。しかし、それが30%ではなく、20%だとしても、少数派とはいえ、見過ごせない数であることに変わりはありません。そして忘れてはならないのは、どんな種類の薬やハーブの調合でも、その影響には個人差があるという点です。

今にして思えば、一般向けではなく「母乳育児グループ」でペパーミントの使用について尋ねるべきだったのかもしれません。あるコメントからは、私が見つけたこの現象は、実は既に知られているものだということが確認できました。

「私は元LLL(ラレーチェリーグ)リーダーで、何年もの間、授乳中の母親と数多く話をしてきました。私の経験では、ペパーミントは授乳中の母親に控えるように勧めている他の多くのものと同様、女性への影響の出方は様々です。影響を受ける人もいれば、受けない人もいる。しかし、うっ血除去薬のような強い影響はないようです。私は一般的に、母乳量の低下や赤ちゃんにうまく授乳できないなどの問題が既にある場合は、念のため注意するよう勧めています。」

ネットで検索すると、母乳分泌を減少させると評判のハーブリストがいろいろ見つかりますが、これらにも確かな参考文献はありません。例えば、「 母乳分泌を増加させるハーブがあるように、母乳分泌を減少させるハーブもあるようです。パセリは、タブーリのような料理で大量に摂取すると授乳を抑制する作用があると考えられている食用ハーブです。ペパーミントとセージは、大量に摂取したり濃縮して摂取したりすると、乳汁分泌を減少させると言われています。ペパーミント天然精油入りの歯磨き粉で頻繁に歯磨きをしたり、強力なペパーミントキャンディーを食べたりすると、一部の母親はトラブルを起こすことがあるようです。幸いなことに、これらのハーブのほとんどは、定期的に、あるいは大量に摂取しない限り、問題を引き起こすことはありません。

そこで私は、これがどこまで本当なのか、自分で確かめたいと思ったのでした。

調査結果:ペパーミント精油はどのように使われたのか?

多くの詳細な回答があり、私がさらなる情報を求めた人は皆、喜んで教えてくれました。私は、ほとんどの人にフォローアップの質問をしましたが、ある傾向がわかった後には、全員には聞きませんでした。全員がペパーミント精油だけを使っていたわけではなかったからです。6名は他の精油と一緒に使っていたし、5名は複数の形(ペパーミント精油、お茶、歯磨き粉など)でミントを使っていました。50名のうち2名はペパーミントティーだけを使っていました。希釈したペパーミント精油を外用し、それ以外は何も使用しなかった人が合計6名。別の6名はペパーミント精油(他の精油は使用せず)を内服していて、キャンディーに混ぜたりしていました。4名はペパーミント精油の室内拡散だけで使用していました。つまり、合計16名がペパーミント精油を様々な方法で使用したことになります。使用方法は様々であり、これが実際に効果を起こしたという論証に説得力を与えています。

以下はほんの一例です:

【訳者注】以下の実践例に散見される精油の内服や精油原液塗布といった実践法は、ティスランドインスティチュートでも安全リスクが懸念されている実践法です。以下に紹介されているものは、あくまでも調査結果の紹介であって、同様の方法での実践を勧める意図はありません。

吸入/空間拡散

片頭痛のための吸入だけであっても、私の母乳量を劇的に減らすのに十分でした。1日2~3回、2日間ほど吸入。産後4ヶ月ごろ、私の母乳量が激減しました。

ペパーミント精油をディフューザーに使ったり、気道が詰まった感じがしたときに気道を確保するために嗅いだりしていました。母乳が減り始めたことに気づいたので、使用をやめたところ、1日後くらいには母乳量が戻ってきました。

局所塗布

私は40度の熱が5日間続き、他の薬が効かなかったので、ペパーミント精油を使いました。熱はすぐに下がり、ぶり返すことはありませんでしたが、母乳の出が悪くなり、回復するのに3日かかりました。しかし、それだけの価値はあったと思います。大さじ3杯(45ml)のココナッツオイルにペパーミント精油を2~3滴たらして、足とふくらはぎに使いました。ペパーミントが子供には安全でないことは知っていたので、できるだけ安全に使いたかったのです。

ひどい偏頭痛の時に使用した時に、1日母乳の出が悪くなったことに気づきました。こめかみに1滴ずつ、首の後ろに1滴ずつ、ココナッツオイルで薄めたものを、局所的に使いました。

内服

娘がまだ生後3ヶ月のときに、1日に数滴内服していたのですが、私の母乳は2日でほとんど出なくなりました。2歳を過ぎた今も、ペパーミント精油を使用していますが、母乳分泌に影響はないようです。私の考えでは、まだ母乳がしっかり出ていない時期には、ペパーミントの影響を受けやすいのだと思います。私は食欲抑制のために、1日に数回、水に2、3滴落として、この精油を内服していました。

ペパーミント精油が含有されている「ジュニア・ミンツ」キャンディーをたくさん食べた後に、私の母乳供給量はほとんど底をつきました。私は幸いなことに、すぐに気づいてキャンディーを食べるのを止めたので、母乳の出を取り戻すことができました。

ペパーミント精油はどのくらいの量で母乳分泌を減少させるのか?


おそらく用量依存的な効果が見られると予想されますが、実際に報告した母親は2人だけでした:

少量なら影響はありません。しかし、1日に10滴以上使うと影響が出ました。

私はペパーミントに非常に敏感でした。たった1滴で、私の母乳の出は大打撃を受けましたので、嗅ぐことしかできませんでした。

例えば、少量のペパーミント精油でも効果が出た事例はかなりありました:

母乳量が減少するので空間拡散もできませんでした。ブレンド、石鹸、フェイシャル、ヘアケア、スパ製品などを使用する前に、成分表をよく見なければなりませんでした。ミントは私の母乳の出を減少させました。

仕事中に何気なく空間拡散させたところ、搾乳量が大幅に減ったことに気づきました。

私は(3人の子どもを)5年以上母乳で育てていますが、吸入だけでも影響があるので、ペパーミント精油は使えません。

ペパーミント精油のビーズレット(1/4滴含有)を内服したら、母乳の量が24時間ほど激減しました。

ペパーミント精油入りの歯磨き粉を使ったら、母乳の量が半分になりました。すでに母乳量が少なかったので、大変でした。

ペパーミントキャンディーを2、3粒食べただけでも、母乳の分泌量が減っているのがわかりました。

ペパーミントの精油は使いませんでしたが、ミントチョコレートのアイスクリームやミントキャンディーを食べると、母乳の分泌量が減りました。

正常な量に戻すのには数日かかり、努力も必要でした。

ペパーミント精油は使いませんでしたが、ペパーミント入りの食べ物でも大きな影響がありました!

減少の程度を測定

搾乳中の母親が、減少量の測定に成功していました:

私はペパーミント精油を手作りデオドラント(精油1:バージン・ココナッツオイル7)の成分の1つとして局所的に使用し、3オンス(約88ml)まで母乳量が減りました。ペパーミント精油の使用を止めた1週間後には、母乳量は元に戻りました。

母乳で育てていた頃、授乳では十分ではなかったので、もっぱらポンプで搾乳していました。当時は精油の使用にあまり興味がなかったのですが、香りを嗅いで首の張りに使うのが好きだったのが、たまたまペパーミントでした。ペパーミント精油を局所的に(首の後ろに1日2~3回)使用したり、直接吸入したりすると、翌日には母乳量は合計1~4オンス(29〜118ml)まで減少していました。それは精油を使用している限り続き、止めてから数日後にまた戻りました。ペパーミントの葉(またはエキス)を使ったお菓子やお茶も同様でした。 当時は希釈の知識がなかったので、おそらく希釈率は非常に高かったと思います。私の手のひらに少量のキャリアとペパーミントを一滴、ほぼ半分半分の希釈率だったと思います。

ペパーミントの使用をやめた後、母乳の出は元に戻った


これ以上の裏付けが不要なだけではなく、これは単なる相関関係というよりは、因果関係を示す強力なエビデンスと言えます。

ペパーミントを長期間繰り返し使用した後、母乳が減少しました。ペパーミントの使用をやめると、母乳量は増えました。

ペパーミント精油入りのサプリメントが、私の母乳量を大幅に減少させました。そして、やめるとすぐに回復したのです。

空間拡散をすると、母乳量が減少していることに気づきました。ペパーミントが含まれていることは意識せずにブレンドを拡散したのですが、その後2、3日で母乳量減少に気づいたのです。そこで、ディフューザーで拡散するのをやめたら、母乳の出は改善しました。

効果がなかった人はどうだったのか?


母乳の出が悪くなったという母親と同じように、効果がなかったという人の場合も、ありとあらゆる方法でペパーミント精油を使いました。

私は授乳中に外用と内服で使用しましたが、何も起こりませんでした!

室内拡散したり、頭痛に外用塗布したり、黒豆ブラウニーに入れて何度か内服したりしましたが、問題はありませんでした!

いつも使っていますが、まったく影響はありません。局所的に使用したり、内服したりしています。現在、3歳半と1歳の子供を母乳で育てていますが、母乳はたっぷり出ています!

外用塗布とパーソナルインヘラーに使用したことがありますが、母乳量に違いを感じたことはありません。

母乳を与えている間、適切に希釈して単品でもブレンドでも使用しましたが、母乳の出に影響したことはありません。

内服とアロマセラピー的な使用とで使いましたが、母乳供給量に影響はありませんでした。

私が気づいた影響はありません。頭痛や首周りの局所塗布、蒸気吸入、フットバス、空間拡散にも使用しました。

私には何の悪影響もありませんでした。授乳中はほとんど頭痛用にしか使いませんでした(精油原液1~2滴をこめかみ、額、首の後ろに分けて塗布)。IBS用の腸溶性ペパーミントカプセルも内服しましたが、私の母乳量が減ることはありませんでした。

ペパーミントのインヘラーを頭痛のために時々使いましたが、母乳量に影響はありませんでした。また、乳腺炎の痛みと腫れに、ペパーミント精油3%希釈で外用塗布ブレンドを使いましたが、鎮痛効果はありました。

離乳時の使用

離乳の際に使いました。確かに張りは取れましたが、母乳の量が減ったとは思いませんでした。

効果ゼロ~ 断乳目的で試しに使ってみたが…効果なしでした。

離乳時に試してみたところ、母乳の出には影響なしでした。

離乳の間、母乳の出を止めるために、噂を信じて使ってみたのですが……何もなし。全く効果なしです!

この現象を理解するために


これは、ペパーミント精油の使用方法や使用量とともに、ペパーミント精油が母乳分泌を減少させるかどうかについて、当事者からの報告を集めることによって明らかにしようとした最初の試みだと思います。明らかに、影響を受ける母親と受けない母親がいました。少量使用であっても、母乳分泌が減少してしまう女性もいます。効果がないと報告した人の中には、離乳のために母乳分泌を減らそうとしていた人もいました。しかし、なぜペパーミント精油が影響を与える人と与えない人がいるのかは不明であり、今回の世論調査でもこれについては明らかにされませんでした。

例えば、スペアミントティーが有効だったというコメントが2件ありました:

スペアミントティーでさえ、私の場合は母乳が減ります。しかし、ペパーミント精油に含まれる最も明白な活性成分はメントールであり、ペパーミント精油はこれが30~50%含有されているのに対し、スペアミント精油には0.5~1%しか含まれておらず、約50分の1も少ないことが注目に値する点です。

セージティーもまた、母乳分泌を減少させるという噂がありました:

セージも一般的には避けるべきハーブと言われています。私は主に搾乳を行なっており、同じく搾乳を実践している14,000人のメンバーが集うFacebookグループにも参加していました。私たちは皆、ペパーミントやメントール、鬱滞除去剤、セージなどを徹底的に避けました。しかし、セージ、スペアミント、ペパーミントは、シソ科という巨大な属に存在するという以外にはほとんど共通点がないのです。なぜ母乳量を減らすと言われているのか、その謎は深まるばかりです。

現在のところ、ペパーミント精油が母乳分泌に影響するかどうかを予測する方法はないので、ペパーミントティーやペパーミント風味のお菓子であっても注意が必要です。私の意見としては、母乳量がしっかり確立する前に影響が出る可能性が高いというのが総意ですので、既に母乳の出に問題がある場合はペパーミントは避けるべきと思われます。しかし、ペパーミントは離乳時や他の理由で減乳や断乳したい場合には役に立つかもしれません。最後に、乳首のひび割れケアにペパーミント精油を0.2%濃度で希釈したものを塗布するのは大丈夫なのでしょうか?(約30mlの基材に精油を2滴)。最初に片方の乳首につけてみて、影響の出具合を試してみてから使うかどうかをご検討ください。

参考文献

Hausner, H., Bredie, W. L., Mølgaard, C., et al (2008). Differential transfer of dietary flavour compounds into human breast milkPhysiology & Behavior95(1–2), 118–124

Melli, M. S., Rashidi, M. R., Nokhoodchi, A. et al (2007). A randomized trial of peppermint gel, lanolin ointment, and placebo gel to prevent nipple crack in primiparous breastfeeding womenMedical Science Monitor13(9), Cr406-411

Shanazi, M., Farshbaf Khalili, A., Kamalifard, M. et al (2015). Comparison of the effects of lanolin, peppermint, and dexpanthenol creams on treatment of traumatic nipples in breastfeeding mothersJournal of Caring Sciences4(4), 297–307

ロバート・ティスランド

国際的に著名な精油関連の研究家。著書『アロマテラピー:(芳香療法)の理論と実際(The Art of Aromatherapy)』(1977)は12の言語で出版され、『精油の安全性ガイド第2版』(2013)は精油の安全性について検討する際の基準として広く認知されている。また、2015年にオンラインスクールとして再始動したティスランド・インスティチュートには世界各地から2000名以上の受講生が集い、一部の講座は日本語字幕版もリリースされている。2023年には、ティスランド・インスティチュート日本語版ウェブサイトが完成。

IFA、IFPA、A I A名誉生涯会員。www.tisserandinstitute.jp

翻訳 池田朗子 M.I.F.A.   

1994年以降東京を中心にアロマテラピー講師として活動開始、現在に至る。2000年に英国へ転居後は教育活動の他、日英雑誌への執筆、国際カンファレンスへの登壇、『精油の安全性ガイド第2版』など翻訳も多数手がけている。英国IFA理事(2005〜06年)www.aromaticsworld.com

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